数学記号(マセマティカル・シンボル)とは
数学は一見,数字の羅列のように映りますが,まず数字だけでは表現できません。関係や条件を表すのに,記号を用いなくてはなりません。記号は言葉と同じ役割を果たします。日常的に関係を表す言葉を記号で表現する言語にロシア語がありますが,これを例にとると《My father is a mathematician.》(父は数学者です)という英文が《Отец - математик》のような露文に置き換えできます。ここでは父と数学者の関係,つまりis にあたる存在動詞が,一本の棒線に代用されるのです。数学における記号も,まさにこれと同じです。もともとは言葉の代わりとして用いられたのが始まりとされ,現在のような数式表現になったのは,長い数学の歴史において比較的最近の話です。つまり記号が作られ,またそれが世に認知される以前は,いちいち長い言葉で関係や条件などを記述する必要があったのです。文系の学生の中には,数学記号の用いられ方と表記には,あたかも音符のような絶対的な決まりがあると思っている人も少なからず見受けられますが,一部の認知度の高い記号を除いては一概にそうとは言えません。しかし,それぞれが思い思いのやり方で通すと,意思の疎通がとれなくなるので,方言と同様に少なくとも同じテリトリー(分野)内においては,共通の用い方がなされているのです。日本独自の数学表記もその一例です。
MathType の数学記号
数学は古典ではなく,進化を続ける学問なので,それに用いられる記号も新たに作り出されてもいますが,様々な分野の数式にギリシャ文字が多用され、古典風な趣を醸し出してもいます。Symbol フォントはギリシャ文字で構成される需要が高い記号フォントで,Windows,Mac ともにシステムフォントとして標準インストールされています。MathType のSymbol フォントは,それらオリジナルの48 文字の約3 倍の145 文字分の記号を収録する拡張型になっています。また,その他にMT Extra(標準),Euclid Symbol(標準,斜体,太字,太字斜体),Euclid(標準,斜体,太字,太字斜体),Euclid Extra(標準,太字),Euclid Fraktur(標準,太字),Euclid Math One(標準,太字),Euclid Math Two(標準,太字)といったフォントを付属しており,様々な数学記号を網羅しています。MathType 上で使用するには,MathType の[編集]メニューから[シンボルの挿入]コマンドを選びます。すると以下のようなウインドウが表示されます:
Euclid Symbol
ギリシャ文字は本来,アルファベットと形状が異なる点で,一目で記号と判ることが利点であったと思われますが,ギリシャ文字の中にはアルファベットに近い形状のものもいくつか存在します。しかし,24 文字(小文字を入れても48 文字)しかないので,いずれの文字にも記号としての需要があります。そして形状が近ければ近いほどアルファベットなのかギリシャ文字なのか区別がつかなく困るケースもあります。そこで字体に癖を持たせて,アルファベットとの違いを強調させた「変字体」と呼ばれるギリシャ文字のフォントも使用されています。MathType に付属するEuclid Symbol もその一つです。
TeX の数学記号
多くの研究者はTeX を使用しているので,それらの記号の大多数がTeX を使って表現できます。記号には,それと判るような何らかのヒントのようなものがあってはじめて意味をなすため,あまり独創的なものを作っても認知されません。それゆえ,ほとんどのケースで,従来のものに何かを加えたような変化形にとどまる傾向があります。簡単に表現できない独創的な記号を,TeX 用の外字として作成することも可能ですが,簡単な合字であれば,通常のTeX の構文だけで表現できるものも沢山あります。MathType には,数式に用いられるほとんどの記号をフォントとして有していますが,TeX による直接入力にも対応しているので,フォントの中にない記号も(TeX で表現できる限り)使用することができます。
重力加速度のg
MathType に重力加速度(Gravity)のg の記号が用意されていないのかご質問をいただくことがしばしばあります。日本では下の部分が輪状(ループテイル)になっているg ではなく,開いている(オープンテイル)g で,しかもイタリック(斜体)というスタイルが定着していますが,米国では重力加速度を表す記号として小文字のg
ということ以外には特に決まりがないため,あえてMathType
にも固有のシンボルとしては用意していません。敢えて言えばオープンテイル型のG の小文字を用いる場合,Arial、Arial Unicode MS、Georgia、Bookman Oldstyle、Courier といった様々なフォントのイタリック(斜体)が好んで用いられているようです。MathType でデフォルトのフォント以外のフォントを使用される場合,MathType の[スタイル]メニューの[スタイル設定] を選び,[詳細]オプションで[スタイル設定]でウインドウを開き,この中のユーザー1 もしくはユーザー2 に,ご使用になるフォントを登録してお使いください。
Adobe InDesign 上での問題点
Windows にはTimes New Roman,Arial,Georgia ,Courier といった一般的なアルファベットフォントの中にギリシャ文字などの特殊記号を有するユニコードフォントが使用されています。これはフォント内の空き領域を利用した拡張キャラクターで,特に気をつけなければならないのが,それらをサポートしないOS やソフトウェアも存在することです。そのためMathType では使用できても,書類に貼り付けた際に,そのフォントないしはシンボルが欠落しているケースもあります。OS に関してはMac が対応しませんので,Mac 用MathType では再現されません。また同じWindows の場合であっても,問題となるケースがあります。その代表的なものがAdobe InDesign です。InDesign の書類上に直接入力する際には問題は発生しませんが,これらの文字が含まれるEPS ファイルを配置した際に,これをInDesign のコンバーターが解せないものと見られ,以下の図のような現象が発生します:
これを回避する方法は,ギリシャ文字にはSymbol などのギリシャ文字フォントを使用するか,それともMathType の数式をPDF に変換することです。Mac 用のMathTypeにはPDF 形式で保存するオプションがありますが,あいにくWindows 用にはありませんので,PDF 変換ソフトを使用しなければなりません。InDesign はPDF 形式での出稿という新しいスタイルのDTP 環境の構築に力を入れているだけに,PDF ファイルのサポートに長けており,PDF に変換した数式ファイル上のこれらの特殊記号も再現できます。Adobe Illustrator の場合,EPS ないしはPostScript コードの読み込みが長けているため,MathType のウインドウ上の数式を,直接Illustrator 書類上にコピー&ペーストすると,これらの文字もきちんと再現できます。InDesign とIllustrator は同じAdobe 社の製品で,互換性も高いので,いったんIllustrator のフォーマットに変換して,InDesign で使用するということも可能です。下図はMathType のウインドウ上の数式を,直接Illustrator 書類上にコピー&ペーストした場合の例です:
|